チクショウ。怒りのあまりコントローラーを妹に投げつけようとした手が空を切る。そこでようやく気付く。コントローラーがないからだ。正確に言えば おれの体がコントローラーだから。おれは体を動かすのが苦手だからゲームをしていたんだ。徒競走でビリになり大縄跳びでミスをしてドッヂボールで女子に当 てられた屈辱。思い通りに動かせない愚鈍な肉体に対する怒りを指先の動きに変え、コントローラーを巧みに操作することで現実に復讐していたのだ。マリオは おれの代わりに高く飛びソニックはおれの代わりに速く走りくにお君はおれの代わりにドッヂボールをキャッチしてくれた。
だがKinectは違う。誰もおれの代わりに踊ってくれない。おれの体がコントローラーだ。普段「プレステのコントローラー糞過ぎて使えねー よ」と粋がっていたがおれ自体、全身が360の十字キーで作られたような最悪の操作性の持ち主だったのだ。そんな不良コントローラー男が妹に勝てるはずが ない。もう駿河屋に売ろう。と諦めてしまうのが普通だがおれは違った。もっと遊ばせろとせがむ妹を追い出し特訓開始。さらに半日のダンスの末、ついに妹の スコアを抜くことに成功した。やったぞ努力の大勝利。いやー筋肉痛が気持ちいいね。流石に疲れたので少し休もう。
Kinectには自分がプレイしている姿を録画してくれる機能があり『Dance Evolution』では踊ったダンスを見て楽しむこともできる。それを視聴しながら休憩しよう。まずは妹のダンス。まぁまぁだがその腕前は我が家では二 番目だ。続いてハイスコアのおれのダンス。そこには華麗なダンスを披露する青年男子の姿が、映ってはいなかった。ダンスとは程遠い奇妙な動きをした変質者 が映っていた。真冬なのに汗まみれでパンツ1枚。激しく動く度に裾からはイチモツがハミ出す。なんだコレは。こんなのダンスじゃない。南米の呪術じゃない か。KONAMI社はこれがダンスの進化だとでも言うのか! この差は何なんだ。同じ音楽で同じ踊りなのに。同じAAA判定なのに。そしておれの方がハイ スコアなのに…。
うーん恐らく妹は純粋にダンスを踊ってAAAを獲ったのに対し、おれは「ここの判定は甘めだから」云々とゲーム的な勘に依拠したダンスを踊っ ていたのだろう。そのためハイスコアを獲るためだけが目的の動きになってしまい、ダンスとしては極めて歪な気色の悪いものになってしまった。こ、これが飯 野賢治が言うところのデジタルの悲しみ…。ハイスコアを奪取しても体は上手く動かせないまま。おれは今日も一人で呪術を踊る。画面に光るPerfect! の文字だけがその姿を照らし続けていた。